研究概要 |
株価収益率の変動を時系列モデルの一つであるARCHモデルを用いて検討したところ、とりわけバブル期間において、株式収益率は過去1,2カ月前のショックに反応していることが示された。このことは、株式収益率に関して過去の予測誤差のショックが、後の株式収益率に影響を及ぼしていることを意味する。上述のように株価がファンダメンタルズから大幅に乖離した要因としては、ARCHモデルの実証分析でみたように、過去のショックが将来期待を変化させて、その将来期待の変化が資産選択行動に影響を与えて株価を変動させ、さらに将来期待を変化させるという自己増殖的なプロセス等で生じていることが明らかとなった。 次に、標準的なマクロ経済モデル分析では、通常、中央銀行が貨幣錯覚で政府を含む民間部門が貨幣錯覚にはないということを仮定して、行動方程式と市場均衡条件を定式化しモデルが構成されている。ところが、この仮定は、このモデルの均衡の性質、長期均衡の安定性に決定的な影響を及ぼしていると考えられる。そこで、(1)すべての経済主体が貨幣錯覚である場合、(2)民間部門が貨幣錯覚で中央銀行・政府の公的部門が貨幣錯覚である場合、(3)すべての経済主体が貨幣錯覚でない場合、(4)標準的な場合、に分けて、古典派とケインズ派のモデルの両方において、短期均衡の性質、長期均衡の性質、および長期均衡の安定性を検討を行った。その分析結果の要点は、次のような点にある。古典派マクロ経済モデルの重要な性質である貨幣数量説は、(2),(3)の場合については成立しない。また、セー法則も、これらの場合については、修正を求められる。ケインズ派のモデルでは、(1),(3)の場合は、モデルは整合的であるが、(2),(4)の場合は、ケインズ派の伝統的な分析結果が、それを含むが、必ずしも一義的には導出できない。(3)の場合は、長期均衡は不安定であることが証明された。
|