金融資産の特性としては、通常、流動性、収益性、安全性が考えられる。したがって、通常の分析では、日本の家計の金融資産選択行動の特徴として、安全資産への選好の強さや、安全性(収益の確実性)から収益性へ選好が変化したかということが議論される。本研究では、そういった特性以外の特性も含め、金融資産のもつ特性に対する帰属価格を考え、予算制約の下で、さまざまな特性に対する需要が実現されるという特性モデルによる分析を試みた。家計が保有する金融資産残高データとして、日本銀行の資金循環統計から得られる、93SNAベースの1979年度から2003年度までの年次データと68SNAベースの1970年から1999年までの四半期データとを使用し、両者の分析を比較した。 いずれの分析結果からも、日本の家計の金融資産選択行動の説明要因として、安全性、収益性という特性以外に、金融資産のもつ多様性(市場性)と解釈される特性が考えられることがわかった。1980年代前半の期間では、安全性から多様性へと、特性に対する需要が変化していた。金融資産需要関数からは、安全資産である定期性預金の収益率が変化すると、外貨預金、事業債といった金融資産への代替需要が認められた。すなわち、日本の家計は、金融自由化による1980年代以降の金融商品の多様化や規制撤廃の進展とともに、選択肢として登場してきた金融資産、あるいはシェアを伸ばしてきた金融資産へと金融資産選択行動を変化させたと考えられる。 1990年代以降は、特性の帰属価格の変化に対する反応が小さくなっており、また金融資産需要関数の計測結果においても、1980年代前半と比較して価格反応係数がきわめて小さくなっているという結果であった。この結果からは、1990年代以降は、価格変化に対してあまり選択行動を変化させなくなっており、金融資産選択行動が変化しにくい状況であったと考えられる。
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