信用リスク計量化の重要性が認識されるにともない、将来のデフォルト確率や回収率を推計する数理モデルの開発が進められている。これらのモデルには、実績デフォルトデータを元にした統計モデルと、市場性のデータを元にした確率過程モデルがある。 近年の研究ではデフォルト確率について、これらのモデルにより実用的な推定精度が得られている。しかし、信用リスク計量化の精緻化の要請から、デフォルト確率以外の変数についても推計する必要が認識されている。例えば、デフォルト確率(もしくはハザード)の期間構造や回収率、デフォルトの相関、エキスポージャーの変動などである。 本年度は、このうちハザードの期間構造と回収率の推計を対象とした。 一般に、期間構造や信用リスク計測モデルのパラメータの推定は、社債金利の水準やボラティリティ、期間構造、企業の財務データ、格付情報などの多方面の情報を用いて行われる。しかし、パラメータ推計は各情報を分断して個別に推定されることから、これらの情報を効果的に活用できているとは必ずしもいえない。本年度の研究では、このような情報を統合して、社債発行企業の特徴(格付け、財務情報)を考慮したハザードの期間構造、および格付けごとの回収率を同時推定する統計的モデリング手法を提案した。 研究によって開発されたモデルは誘導型モデルである。これを利用する利点としては、ファイナンス理論の特徴をいかしつつ、現実に観察される観測データの特性、つまり市場参加者の期待形成を反映・解釈できることにある。さらに、前述の情報統合のためにパラメータ推計方法やモデル選択手法にスプライン推計やBICの利用など、統計的な技巧を用いた。日本債券市場のデータをもとに、実証分析をおこない、インプライドに推定された金利の期間構造、ハザードの期間構造、回収率を検討した結果、提案手法の有用性が確認された。
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