本研究は債権回収率の計量化モデルを開発・提案するものであるが、特に回収実績データを利用するWorkout LGDと社債市場データを利用するImplied LGDを対象とする。欧米で実用化されつつあるMarke LGDは、日本ではデフォルト債券市場が未発達なためモデル化が難しい。また、Workout LGDはデータベースの整備が遅れているため、データ収集方法から検討を始め、研究当初は過小データでのモデリング方法を検討した。また、日本の融資習慣には、担保順位や代位弁済などの他国にない複雑なシステムがあり、それを反映するようなモデルとデータベースの構造を開発する必要がある。Implied LGDは社債データが入手可能であるが、モデルの推計精度に問題があり、精度向上の理論を確立する。 19年度に置いては、年度中に利用可能となった信用保証協会の代位弁済実行データを用いてWorkout LGDに関する統計モデルの作成を中心に行った。中小企業の債権回収に置いては、日本特有の商習慣があり、回収期間が非常に長いことがデータ分析によって明らかにされた。そのため欧米で普及段階にあるLGDモデルは日本においては利用不可能で、回収行動を的確に反映した独自モデルの開発の必要性が明らかになった。具体的には担保の有無や担保価値、連帯保証に関する要因、政府の金融安定化制度などが、複雑に反映されていることが確認された。実用的なモデル作成については20年度において行う予定である。
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