本研究は債権回収率の計量化モデルを開発・提案するものであるが、特に回収実績データを利用するWorkout LGDと社債市場データを利用するImplied LGDを対象とする。欧米で実用化されつつあるMarket LGDは、日本ではデフォルト債券市場が未発達なためモデル化が難しい。また、Workout LGDはデータベースの整備が遅れているため、データ収集方法から検討を始め、研究当初は過小データでのモデリング方法を検討した。また、日本の融資習慣には、担保順位や代位弁済などの他国にない複雑なシステムがあり、それを反映するようなモデルとデータベースの構造を開発する必要がある。Implied LGDは社債データが入手可能であるが、モデルの推計精度に問題があり、精度向上の理論を確立する。 回収実績データを用いた回収率推計モデルの構築 銀行の回収率データについては依然入手困難であるが、その代用として信用保証協会の回収実績データを入手することができた。これまで平均値などの基本統計量を計算する解析は終えているが、回収率を推計するまでには至っていない。今年度は回収率の推計モデルを構築し、これまでよりも精度の高い回収率モデルを構築した。そのとき、回収の経過時間の補正が重要であり、回収プロセスを正確に表現できるよう留意した。 回収率モデルの系統の整理 今年度の「回収実績データを利用した回収率モデル(統計モデル)」の研究を行うことにより、回収率モデルの要素である、「構造モデル」「誘導モデル」「統計モデル」の3つをそれぞれ構築したことになる。使用するデータが違い、またバックテストが可能なほどの時系列データがないため、実績値による精度比較はできないが、理論的な長短を比較することが可能となった。
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