本年度の実績は、活字発表、口頭発表、そして実地調査である。第1に、図書の研究発表として『外国経営史の基礎知識』では、フランスの経済団体・企業・経済システムについて、とくに自動車産業と新興産業に着目して比較史的に論じた。これは、中小企業が支配的なフランス型経済システムが、19世紀の世界経済において先進的であり、20世紀末にはネットワーク化を通じて新しい可能性を生み出しつつある逆説を論じた。本研究の経済団体論・国際比較史の直接的基盤となる。第2に、雑誌論文として「北海道の潜在力を引き出す方策には手本がある」では、非アメリカ型のグローバリゼーション・経済開発の重要性を述べた。日本のとくに地方経済の発展のためには、米国型の純粋な市場経済モデルは手本にならず、政府・産業・市場の三角構造が無視できない。第3に研究報告としては、「フランス土木業界における経営者団体の組織史-1882年・1900年-」(政治経済学・経済史学会北海道部会、2005年12月)で、土木業者組合を事例にしたフランス経済団体の組織史について実証分析を口頭発表した。この研究成果は、東京や湯ヶ島での研究報告・討論を経て、雑誌投稿中である。第4に、招聘基調報告「現代西欧における社会史方法論-フランス土木業組合の組織史を事例に-」(第43回北海道高等学校教育研究会年次大会、2006年1月)において、数百人の高校教員が集まる研究発表会で、社会科学最新方法論としての「組織史」を論じた。第5に比較史調査として、フランス、モロッコ、セネガル、ラオス、ベトナムの国立文書館・図書館で、仏植民地時代の商工会議所文書を複写実数にして2千枚弱収集した。とくにラオス商工会議所では、現地でも記憶の失われた仏時代文書の提供が歓迎され、副会頭・元会頭のインタビューに成功し、社会主義化後に忘却された「空白の百年史」の再形成に一定の貢献をした。
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