今回は、1950年代のイギリスの対外経済政策、とくにガット体制に対するさまざまな見解を検討することで、農業がどのように貿易体制のもとで扱われてきたのかを検討した。 主たる作業はイギリスの国立文書館において1950年代の通商交渉関係の文書ファイルを調査することである。調査した文書は(1)内閣レベルでの委員会、(2)商務省のファイル、(3)外務省のファイルである。問題関心としては、従来からの(1)草創期のガット体制に関してイギリスがどのような課題を抱えていたのかといった問題のほかに、(2)1940年代末から1950年代前半にかけてイギリスとコモンウェルスとの関係がどのように変貌したのか、(3)日本のガット加盟問題に対してイギリスがどのような態度で臨んでいたのか、の2点を追加した。最後の点は、ガット体制成立上の問題として、イギリスと合衆国の関係、イギリスとコモンウェルスとの関係に焦点を当ててきたこれまでの研究のあり方に反省を迫るような問題の発見につながっている。即ち農業の扱いを核にしたイギリスと合衆国の利害の対立、と協調、イギリスとコモンウェルスとの関係といった図式の中に、イギリスと日本、コモンウェルス諸国と日本の通商問題をいれることによってより立体的にガット体制成立期の諸問題をとらえることが出来たのである。今後はさらに日本を入れた通商問題の解明に取り組んで、当時の国際経済体制の性格を明らかに出来ればと思う。 このほかに、ロンドンスクール・オブ・エコノミクスでミード文書とガット関係文書の閲覧を行った。また1950年代初頭のイギリスと日本の通商問題調査の一環として、九州国際大学、八幡製鉄所で鉄鋼関係の資料を閲覧した。
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