研究概要 |
本年度は4年間の研究期間の初年度にあたるため,関連文献の検索・収集・精査が研究活動の中心とならざるをえず,現時点では公表論文はない。また文献の利用形態に関しても既存研究の全体的な把握をようやく終えたところであり,分析対象(産業・企業・地域)の絞り込みを進めている段階にとどまっているが,9月には,ハルム・シュレーター(ベルゲン大学)教授の主催でミラノにおいて開催されたヨーロッパ企業史関連の研究会の場において,若干の独自資料による分析に基づき,報告・意見交換を行うことができた。この機会は,研究対象時期を両大戦間期からむしろ戦後の時期に移すことが分析上有効であるとの示唆を得た点で重要であった。 こうした段階にあるためごく暫定的な結論に留まるが,以下の事実が垣間見られた。まず既存研究は時期的には戦間期,とりわけ1933年から45年の時期に偏っており,生産システム固有の問題に関する研究蓄積は極めて乏しく,むしろ社会史的・労働運動史的な研究に重要な示唆があり,消費社会史論的な手法の援用が有効である。 焦点となるアメリカ的大量生産体制の移植については,特に異なった資源賦存状況(特に水力)と生産財生産部門の比重の高さ(高度大衆消費社会的発展の低さによる段階的なものは一部で,むしろヨーロッパの地域内分業を反映)の結果,すでに1920年代から,特にスイスのライン川流域,リヒテンシュタイン,ローヌ河谷の幾つかの工場においては,ヨーロッパの北西部とは異なった状況があったと判断しうる。。それに対し,北イタリア,とくにトリノ周辺地域との生産システム史上の共通性は未だ仮説の域を出ない。
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