研究概要 |
高ライン地域を含むアルプス周辺地域=スイス・南ドイツ・フランス東部の主要産業についての歴史的産業連関(技術系譜,組織関係,市場条件等)の分析と,同概念に即して系譜関係を設定した企業立地データベースによる分析(整理中)の結果,ヨーロッパの有力企業の歴史的起点が,アルプス周辺地域=スイス・南ドイツ・フランス東部・イタリア北部に,相対的に極めて高い集中度で分布していることが暫定的ながら確認された(今後論文化予定)。ただし,イタリア北部については統計・産業史料等の入手が資金的にも技術的にも予想より困難で,本格的な分析は新たな共同研究など今後の課題とせざるをえなかった。他方,比較地域史・産業史・経営史レベルでは,スイス・ドイツ国境地帯の多様な20世紀型産業(電機,電気化学,アルミニウム,鋳鋼製造,ブランド付き食品工業)の有力企業に関して成果が得られた。(1)国境を跨ぐ産業集積立地・企業内・企業間分業は,「総力戦」の時代においても存続し,経済的中核地域としての一体性が維持されたこと,中立国周辺地域としての対象地域の性格が,重要な要素であること,(2)当該地域の主たる技術連関は「水力=電化型」であるが,戦争需要と関連の大量生産システムは,化学・金属機械への産業高度化を促進・加速したこと,しかし環境条件に既定され,欧州西北部型の重厚長大型大量生産は主流とはならなかったこと,(3)両大戦期・戦間期に,大戦や恐慌の打撃を回避するため,当該地域に本拠を置く多国籍企業組織の再編や,米国市場への進出がなされたこと。立地固有の競争力優位(劣位)が,多国籍化と密接な連関にあり,20世紀末まで重要な要素でありつづけたこと。
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