本年度の研究は、論点の整理と資料収集を中心に行った。まず、研究の出発点としては、ドイツ社会国家の発展史を大きく見渡したうえで、第1次世界大戦からヴァイマル共和国成立の時期がそのなかでどのような位置を占めているのかについて、おおよその仮説的な見通しを立てることが必要であった。そこで、社会国家や社会的市場経済の歴史的性格について、国内では、名古屋大学の石井聡氏を招いて議論をした他、2006年2月にはドイツにおいて、6人の研究者と意見交換を行った。とくにカッセル大学のテンシュテット教授とのそれは、教授がこの問題についての専門家であるだけに、きわめて有益であった。問題の設定の仕方に教授は同意されたし、また、多くの文献情報を得ることができたからである。そして、それに基づいて、主として連邦社会裁判所図書館で、社会保障関係の多くの雑誌(1914-1920年に刊行されたもの)を閲覧し、多くの論文・雑誌をコピーすることができた。こうした資料は本研究にとっては不可欠のものであり、それを入手できたことは大きな収穫であった。これによって、基本的な資料収集の作業は完了したと、現時点では考えている。 以上のような準備作業を踏まえて、現在は、「第1次世界大戦期ドイツの召集兵士家族の支援」と題する論文を執筆中である。大戦期勃発直後から、働き手を軍務にとられた家族に対する支援策が講じられた。その後、いくつかの補正・拡充を必要としたが、この制度・政策が生活保障政策として有する意味は大きなものであった。それとともに、これは従来の救貧制度の差別的な性格を浮き彫りにし、そこから、新しい公的扶助としての扶助義務令の成立にいたる道筋が拓かれてくる。こうし過程と、問題点、その解決のありかたを事実に基づいて明らかにすることを本論文の目標としている。
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