本年度の研究は、昨年度の準備を基礎として、「第1次世界大戦期ドイツの応召兵士の家族支援」と題する論文の執筆を中心として進められた。その概要は以下のとおりである。 この論文では、まず兵士家族支援の枠組みを次のように整理した。(1)1888年の<兵士家族支援法>の要点を整理した。(2)大戦期にはこの法律では対応できなかったために、諸邦国は次々に<内相布告>などによって制度を拡充し、ライヒはそうした動きを受けて1916年には<連邦参議院布告>によって<家族支援法>を改定したが、そのプロセスを明らかにした。(3)そのなかで、家族支援制度がもつ問題点を明らかにできた。本研究にとってとくに大きな意味を持つのは、兵士家族支援が従来の貧民扶助とは基本的に異なっていることが強調されていた点である。 兵士家族支援を実施するなかでは、この点は常に意識され、それは給付の基準や額の相違に示された。ところが、他方では、この制度実施の組織や担い手については、貧民扶助のそれが大きな役割を果たした。<家族支援法>において支援の担い手として規定された「給付組合」は実体を欠き、既存の制度や組織に頼らざるを得なかったからである。こうして、兵士家族支援制度は、貧民救済とそれがもつ問題点を明らかにし、それによってそれを改正しようとする動きを刺激・増幅することとなった。それが大戦後、救貧制度改正の動きとなり、1924年義務扶助令を成立させることになる。 上記の論文の一部は、すでに九州大学『経済学研究』第73巻第2・3号に掲載されたが、その続編も今年度中に公刊される予定である。
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