初年度は、日本の有力総合アパレルメーカーに成長した三陽商会の1960年代から70年代に至るブランドの発展過程を研究し、成果にまとめた。 1960年代は、「サンヨーレインコート」で知られるように、「サンヨー」ブランドは、コートという特定の製品を表現する製品ブランドであった。特定の製品カテゴリーと結びつくブランドという意味で、これを単品ブランドと呼ぶことができる。 次に1970年代前半、三陽商会がコート専業から総合アパレルメーカーへ脱皮する過程で、紳士や婦人という顧客別、製品カテゴリー別に多数のブランドが生み出されると同時に、ある特定のブランドを取り上げると、その中に多様な製品カテゴリーを含むようになった。これを多製品ブランドと捉えることができる。 さらに1970年代後半には、多製品ブランドが、百貨店の売場、言い換えればショップと密接不可分に結びつき、ショップ空間、品揃え、販売サービスをブランドの内部に取り込んでいくこととなる。たとえば「バーバリー」というブランドは、製品ブランドであると同時に小売ブランドとしても認知されることになる。この背景には、百貨店の売場編集原理が、コートやスーツという製品カテゴリー別売場から、多様な服種を含んだブランド別売場へと変化したことを挙げることができる。多様な服種を揃えた1つのブランド提案は、顧客に対してあるライフスタイルを提案して、複数の商品購入を促すこととなった。 本研究では、生産から小売プロセス全体を1つのブランドとして体現するものを、製品・小売ブランドと名づけているが、製品・小売ブランドが、1970年代後半の三陽商会に複数成立しつつあった。単品ブランドから多製品ブランド、製品・小売ブランドへというブランド形態の発展、ブランドを基軸とした生産、・販売の統一の萌芽が1970年代の三陽商会に示されている。
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