第1に、1950年代から80年代至る日本の衣料品(洋服)分野において、コモディティ(差別化されていない商品)からブランドへ転換したこと、ブランドを基本単位とした企画・生産・卸・小売が形成されていったことを歴史的に明らかにする作業を行なっている。事例として(株)三陽商会を分析し、製品ブランドが売場をブランドの一部として取り込み、製品・小売ブランドとして、ブランドの範囲を拡大して顧客との関係性を構築するようになったことを示している。ブランド形態の発展として、製品・小売ブランドが形成されたことを歴史的・実証的に明らかにした点は、研究上の意義として特筆される。 第2に、1950年代から70年代にかけて、アパレル流通の一翼を担った集散地問屋・地方問屋・現金問屋の実証研究を行なった。集散地問屋は、低価格帯のアパレルを製品仕入れして仲間卸や地方卸に販売していた形式から、商品企画および生産管理を内部化して生産機能を取り込み大規模小売チェーンに販売する形式へと転換した。この総合卸のアパレルメーカー化は、多段階のアパレル流通が整理されて、アパレルメーカー→小売業者→消費者という単純な流通経路に整理されたことを示す。 この単純な流通経路の中で、製品と小売のブランドがどのように成立しているかという観点から見れば、以下のように類型化できる.(1)製品ブランドと小売ブランドが、それぞれ所有主体を別にして自立して成立している形態、(2)製品・小売ブランドとして一体化して、一主体が展開している形態、(3)製品ブランドが成立せずに小売ブランドだけが成立している形態、(4)製品ブランドも小売ブランドも成立していない形態である。 三陽商会におけるブランドの発展は、「サンヨーコート」が有名百貨店で売られる(1)の形態に加えて、「バーバリー」が製品とショップを意味するような(2)の形態の登場を示している。集散地問屋におけるアパレル事業は、製品ブランドとしての展開と、製品ブランドを展開しない形態の両方があることを示している。製品ブランドと小売ブランドに関する上記の4類型が、アパレルメーカーの分析から析出できるが、歴史的な傾向は、ブランド構築への指向を示している。
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