本研究では、第一に計画経済と市場経済のシステムとしての差異を明らかにし、移行経済下の制度資本と関係資本の構築が容易でない理由を抽出した。そのうえで、サービス産業の後進性に触れ、それが社会主義の本質に根ざしたものであることを示した。 第二は、国際ビジネスの理論研究の流れをフォローし、ロシアに代表される新興経済ビジネスへのインプリケーションを提示した。また、近年、新興経済に関わる国際ビジネス研究がどのように進展してきたか、整理し、更なる検討が必要な領域とそのアプローチ方法について提案した。 第三は、これまで進めてきた、ロシアの金融制度の進化をフォローしつつ、消費者向けローンを中心とするリーテルバンキングの現状と展望を明らかにした。家電製品などの販売信用ビジネスに加え、住宅ローンや自動車ローンの枠組みができ、ロシアの消費社会がさらに進展するであろうことを主張した。 第四は、ロシアの新たな産業として期待される、ソフトウエア産業と主要企業の現状と展望を、聞き取り調査に基づき、明らかにした。自然科学教育が盛んで、優れたエンジニアを多数供給可能なロシアの立地特殊的優位を活用し、欧米企業への輸出を行なっているだけでなく、顧客満足と従業員福利という市場経済に合致する行動様式を取っていることがわかった。 第五は、数年前までは、予想もしなかったペースで、ロシアの主要企業の国際化が進んでいることを明らかにした。天然資源産業は豊富なキャッシュフローを活かし、M&Aによる海外市場への進出を図っている。また、ソフトウエア会社は、市場を求めて、販売会社の設置を進めている。いずれも、市場経済の原則に従った、市場参入であるし、経営戦略も、進出による競争力向上を目指す点で、極めてノーマルな企業行動と捉えることができる。こうした点からも、ロシアの市場経済は着実に進展しているし、内外の企業の戦略と行動も、市場環境の変化とパラレルに進化を遂げているのである。
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