本研究は、グローバルな知識移転を効率的に行う、多国籍企業の内的メカニズムを分析することを目的としている。Kogut and Zander(1993)は、多国籍企業が形成されるのは、知識移転を容易にする社会的共同体としての組織の特性のためであると主張している。多国籍企業が形成されるのは、知識移転を容易にする組織の特性のためであるとするならば、知識移転を容易にしている組織に特徴的なメカニズムとはどのようなものであるのかについて注目する必要が生じてくるということになる。 本研究では、この組織に特徴的なメカニズムとして社会化によるコントロールに注目している。社会化によるコントロールとは、組織内の個人の行動のコントロールを、組織の行動環境を形成あるいは転換することによって行う方法を指している。本研究で、社会化によるコントロールに注目するのは、知識移転のためには、それに関わる個人の長期にわたる自発的・能動的行動が必要とされており、こうした行動を呼び起こすという点において社会化によるコントロールが最も有効であると考えるからである。 また、社会化によるコントロールと知識移転との関連を考察していくためには、ここで焦点をあてている行動環境の特性、及びこうした行動環境がどのように形成されるのかについてのプロセスについてもみていくことが必要となる。この行動環境の特性とは、どのような行動環境が個人の自発的態度や行動を導くのかという、その内容を示すものであり、ここではこの特性を、価値認識の共有、個人価値の尊重、及び個人間の関係性の質という三つの次元からみている。一方、こうした行動環境がどのように形成あるいは転換されるのかという点に関しては、管理者によって実行される管理スタイルが行動環境に与える影響に注目している。本研究では、こうした視点の下に、知識移転の障害要因、それを克服するための管理スタイル、その管理スタイルが生み出す行動環境と、知識移転の効率性を関連づける分析のフレームワークを提示している。この研究成果については、国際ビジネス研究学会第12回全国大会(広島市立大学)において、報告を行った。
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