企業統治の限界を究明するため日本のトヨタとキヤノンを両社とほぼ同一産業に従事するアメリカのゼネラルモーターズとゼロックスと比較した。まず日本の両社においては社外取締役が皆無であり、かつ取締役会が大きい点、および株主利益至上主義を排除し、終身雇用を擁護する点で今日日本においても国際的にも優れているとされる企業統治の基本的条件の三つを満足していない。両社の最高経営責任者はいずれもこれらを日本的経営の利点であると公言し、雑誌、新聞の記事の中で強調している。これに対してゼネラルモーターズはアメリカの企業統治の模範とされ、圧倒的多数の社外取締役、これらにより構成される監査委員会、指名委員会、報酬委員会の三大取締役会委員会を設置している。また取締役会の規模もトヨタの三分の一である。にもかかわらず、同社は2005年度において危機的な状況に陥り、倒産の可能性さへ指摘された。ゼロックスも同様にゼネラルモーターズに類似した企業統治制度を有するにもかかわらず、キヤノンとは対照的にようやく損失から立ち直り、利益を回復しつつある。しかしその複写機における市場地位はアメリカにおいてさへキヤノンにますます脅かされつつある。この二つの産業における日米代表的企業の比較は企業統治が業績に対する貢献度合いは大きくないことを示している。以上の比較の結果は企業統治が必ずしも企業成果に積極的影響を与えるとは限らず、それ以外の要因がより重要であると推定される。これの要因とは企業戦略と企業文化であると考えられる。裏面に記載の英文論文においてはこれらの追加的要素についても当該日米企業間で比較し、企業統治の有効性を過大評価することは危険である点を指摘した。
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