1 企業不祥事には様々なものがあり、戦後60年の日本の企業社会を揺るがした企業不祥事は、(1)1960年代後半から73年の石油危機の時期(産業公害、欠陥・有害商品など)、(2)73年の石油危機後の時期(投機、買占め、売り惜しみなど)、(3)90年代の時期(入札談合、利益供与、損失補填など)、(4)2000年代初頭の時期(集団食中毒、食肉・産地偽装、粉飾決算、有価証券報告書虚偽記載など)の4フェーズに分けることができる。日本企業の不祥事は、(1)から(4)へ進むにつれて一層悪質化し、巨額化し、その手口は多様だが、内部告発によって発覚するケースが増えつつある。 2「社会に信頼される企業」は、日本企業をつぶさに調べてみると、「ステークホルダーに信頼される企業」を指すことが分かった。各社の業態によりステークホルダーは異なるが、消費者・お客様からの信頼を得ることを重視する企業が多い。「社会に信頼される企業」の条件としては、(1)経営者が明確な経営倫理観・経営姿勢・危機意識を持ち、社員との対話等のコミュニケーションを通じて、これらに関する社員の意識を高めること、(2)企業倫理・法令遵守・行動基準を社員に徹底し、企業統治を強化すること、(3)風通しの良い企業風土を醸成し、経営の透明度を高め、情報開示することが挙げられる。 3「社会に信頼される企業」像の形成について、京セラ、オムロン、リコー、松下電器、セイコーエプソン、トヨタ、シンテックホズミ、雪印乳業などのCSR(企業の社会的責任)担当者に聴き取り調査を行った。また、星城大学経営学部の学生に対し、自由回答に形式によるアンケート調査を実施した。こうした調査は、不祥事企業に限定せず、次年度も続ける予定である。 4 不祥事企業の一つである雪印乳業は、集団食中毒・牛肉偽装事件により、経営危機に陥ったが、2002年6月以降、事業分割と事業提携を図り、社外取締役の選任、企業倫理委員会の設置、行動基準に基づく社員の意識改革、お客様モニター制度の導入などを通じて、内向きで、危機意識の欠如した企業体質を変革し、2003年度の決算において黒字化を達成した。全社員が一丸となって、経営再生へ力強い一歩を踏み出し、「社会に信頼される企業」づくりを目指している。この事例分析は、「社会に信頼される企業」の条件を考えるうえで、参考になった。
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