研究概要 |
1 戦後60余年に及ぶ日本の企業社会を揺るがしてきた企業不祥事の中で近年頻発しているのが、環境不祥事(排水データ・煤煙データ・排気ガスデータの改竄、原子炉の損傷隠し・点検記録の改竄など)である。これを大手の環境先進企業が引き起こしているケースが多いだけに、社会的影響が大きく、事態は深刻である。その主因は利益第一主義によるところが大きい。しかし、不祥事企業が受ける経営的打撃は、目先の利益とは桁違いに大きく、社会からの信頼を失い、経営破綻を招きかねない恐れがある。 2 「社会に信頼される企業」とは、「ステークホルダーに信頼される企業」を意味する。日本では、消費者・お客様からの信頼を得ることを重視する企業が多い。 3 「社会に信頼される企業」の実践的条件は、(1)経営者が明確な経営倫理観・経営姿勢・危機意識を持ち、社員との対話等のコミュニケーションを通じて,これらに関する社員の意識を高めること、(2)企業倫理・法令遵守・行動基準を社員に徹底し、企業統治を強化すること、(3)風通しの良い企業風土を醸成し、経営の透明度を高め、情報開示することである。この条件は、前年度の実績において挙げた条件と変わりがない。 4 経営者の舵取りを監視・監督する主体としては、企業の外部者、企業の内部者および経営者自身の三者がある。しかし、外部者統治(市場型統治)や内部者統治(組織型統治)といった他者統治よりもはるかに重要なのは、経営者自身による自己統治(経営者型統治)である。筆者は、「社会に信頼される企業」作りの重要な基盤をなす企業統治は、根源的には、経営者型統治であるべきであり、企業が他者統治に頼ろうとする限り、企業はいつまでたっても、その甘えや脆弱さから脱却できないと考えている。 5 本研究の成果の一部は、EUインスティテュート関西主催のシンポジウム(2006年11月25日、於関西学院大学)および米国ミズーリ大学セントルイス校・東洋大学共催のシンポジウム(2007年3月16日、於セントルイス校)において発表した。後者のシンポジウムでは、Prof.H.W.SmithならびにProf.R.A.Colignonから示唆に富むコメントをいただいた。筆者は、引き続き、経営行動研究学会(2007年4月21日、於早稲田大学)、消費経済学会(2007年5月19日、於中央学院大学)などで、研究成果の発表を予定している。
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