17年度は、ドイツ語圏の経済倫理および企業倫理に関する代表的研究者のひとりであるP.ウルリッヒ(スイスのザンクト・ガレン大学)の統合的経済倫理学についての文献の収集とその方法論的および理論的研究の考察を中心に行った。文献の収集については、同大学の図書館およびウルリッヒの経済倫理研究室において行った。さらに、従来から集めていた文献とそこで収集した文献によって彼の学説の特に哲学的および理論的な側面についての吟味に着手した。ただ、彼の統合的経済倫理学は極めてスケールが大きく、その理解には哲学、倫理学および経済学についての非常に広範な知識が不可欠であったため、その考察には当初の予定以上に多くの時間と労力を要した。したがって、ウルリッヒの統合的経済倫理学の一般的な性格の概要を近代的倫理学の諸見解にもとづいて明らかにするための最初の論文をまとめ、大学の紀要に発表するべく提出済み(査読中)ではあるものの、その全体的な吟味についてのまとまった成果を挙げるにはいまだ至っていない。これは次年度の課題になる。 以上の研究と同時に、17年度は広くドイツ語圏のみならず、アメリカおよびわが国の企業倫理学や企業倫理の実践と現実の企業の不祥事に関する文献や資料の収集にも努めた結果、かなりのものを集めることができた。ただし、これらの文献や資料は今後も多数あらわされると思われるのであり、それらの収集は今後も引き続き行われなければならないと同時に、それらについての考察および分析も次年度以降に委ねられざるをえない。 以上のように、17年度は本研究の初年度であったため、文献や資料の収集に重点を置くこととなり、論文の形での成果を十分に挙げることはできなかった。しかし、2年目以降の本格的な研究のための準備はかなり整った。その意味では一定の成果はあげられたと考えている。
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