制度の生成はその存続のための経済的理由に加えて、生成過程にも有意に依存する。分析の第1課題は取引制度の生成過程を識別し、その理論的根拠を与えることである。まず、取引制度には歴史的経路依存性があるかどうかを識別することである。歴史経路依存性とは制度の生成はその過程に依存することを指している。過去の制度が現在の制度生成機会を作り出すようにして、生成の経路が不可逆的に現在の制度の性質に影響を与えると考えられる。そのような歴史経路依存性が識別できるのかが、分析の焦点となる。このような問題設定のもとに、特定産業を事例対象に取り上げ、歴史資料に基づいて分析し、取引慣行生成を産業構造との関連で明らかにする、さらにそれらの生成の経済的根拠を説明する。 比較分析は所与の外生条件下での取引主体の合理的行動の斉合的状態として、取引制度が識別できるか、すなわち均衡として識別できるのかが分析の焦点となる。取引を円滑に行い、取引に伴う費用を節約するためには、取引関係構築の仕組みが必要である。さらに、取引契約履行のための誘因や制裁を伴った自律的取引関係を確立する機構が必要である。双務的取引関係から多角的関係への展開には自律的取引関係の外部性によって補完性が働き、取引制度として定着すると考えられる。そのような取引制度の確立には、取引主体間での自発的調整および第三者による調整が必要である。取引主体間の自発的調整には他方の主体の行動に関する信念にもとづいた行動の選択が必要になる。重要な働きをする信念形成には、制度環境と構成する社会・政治・文化要因が作用すると考えられる。さらに取引関係の形成に伴う取引行為の蓄積過程での行為の記録も重要な影響を与えると考えられる。したがって、取引制度の存在や生成の説明には、取引関係構築の仕組みを解明することが必要になる。
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