今年度研究においては、我が国流通機構における、卸売流通業者・卸売商業者の役割、そしてチャネルリーダーとしての流通経路上のポジショニングの変遷に着目し、それを取引関係の関係維持の問題に収斂させて、検討してきた。既存理論からの仮説導出においては、「取引の連動性」概念による説明の一貫性について検討され、その可能性が確認されている。 また、取引の連動性が仕入れ取引面と販売取引面における同時発生を常に満たすものではなく、時間的なずれの生じる性格のものであることが、チップワンストップなどの研究事例により確認されている。本年度研究においては、特に販売取引誘導型の取引連動性モデルの理論モデルとしての可能性が考察されている。次年度において、仕入れ取引誘導型の事例を研究・検証することにより、「取引連動性」モデルは、より頑健な理論概念に近づけるものと期待できる。 なお、次年度研究における仕入れ取引誘導型において、暖簾・企業ブランドの役割について、更なる考察が加えられる。暖簾・企業ブランドの戦略的な重要性は、もちろん確認されているが、今年度行われた研究において、販売誘導型の取引連動性モデルでは、買い手・消費者起点のマーケティング戦略が、その付加価値創出の基盤になっていることが明らかになった。企業ブランドや暖簾という戦略的差別化要因よりも、先ずは顧客満足の充足という視点からの取引関係構築が優先されることが明示的に示されたのである。仕入れ取引誘導型の取引連動性モデルでは、暖簾や企業ブランドの戦略的活用が、販売取引誘導型よりも、より重要視されることが想定されている。 さらに、本年度は中小企業整備基盤機構の購買代理業態に関する研究との意見交換による連携が図られた。中間流通としての卸売業者と購買代理人としての卸売業者のあり方が、流通機構の形成・発展に及ぼす影響についての研究成果としても期待できるものと思われる。
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