本研究の目的は、わが国の地方財政制度の改革が進められることを踏まえて、地方公共団体に導入される新たな財務会計制度についての検討を行うことである。そして、新たな財務会計制度から算出される様々な財務データの具体的な利用方法を示している。そのために、まず従来から用いられてきた財政分析の手法に関する検討を行い、そこで用いられてきたさまざまな財政比率には地方公共団体の実質的な財政状態を明らかにするうえで限界があることを示している。そのうえで、地方公共団体における財務会計制度の改革が求められている経緯をまとめ、現時点で多くの地方公共団体で採用されている「総務省方式」の内容を検討している。さらに、地方公共団体が保有する資産を評価するうえで採用すべき属性については、財務情報を利用するという観点からも取得原価を採用することが望ましいことを明らかにしている。また、地方公共団体への複式簿記の導入については、複式簿記が有する内部統制機能を重視すべきであることを論じている。そして、地方公共団体の財務会計制度に連結会計を導入することの意義についても検討し、連結バランスシートが地方公共団体の財政状態の実態を示す上で有益であることを論証している。そのうえで、日本各地の主要都市に関する実際の財務数値を収集し、その数値を分析することで都市ごとの相違点がどのように描き出されるのかを示している。 地方公共団体の財務会計制度は現実に改革されつつあるが、財務会計を情報システムとみなす視点は必ずしも普及していない。そのため、手法としての財務会計の変更は行われていても、その仕組みが有効に利用されない危険性がある。それに対して本研究は、地方公共団体の財務数値の具体的な利用方法を示しており、そのような状況を打開するうえで大きな意義を有している。財務数値の分析結果を行財政計画の立案とリンクさせる方法については更なる検討が必要であるが、決算に基づく財務数値が地方公共団体の実情を描き出すことができることを示している点で、本研究の成果は重要である。
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