市場の競争圧力が急増してくるとともに、市場に公表する会計数値を歪曲する裁量行動が世界的規模において拡がっており、詐欺的会計報告として強い批判にさらされているところである。本研究プロジェクトはこうした裁量的会計行動を取り上げ、(1)売上高を嵩上げする収益数値制御行動と(2)株主利益を嵩上げする利益数値制御とに分けて、それぞれの成り立ちを実証的に解き明かそうとしている。最新の契約コスト理論を援用によって、この実証分析のフレームワークを確立したのが、本研究の第1の実績である。 売上高の計上にあたっては、会計規制によって販売基準の画一的適用が強制されているが、アメリカのIT企業などでは、この会計ルールの抜け穴を潜って、収益数値を意図的に膨らませる裁量行動が採用されがちであった。その主要な手法となったグロスドアップ、早期収益認識、ソフト販売取引、バーター取引などを詳細に分析したうえで、日本企業における収益認識にどのような問題があるのかを具体的に明らかにしたのが、第2の研究実績である。 第3に、本研究では、日本のビジネス・スタイルに光があてられており、日本の取引慣行との関連において収益数値制御行動と利益数値制御行動が緻密に分析されている。日本には古くより「消化仕入れ」といわれる取引手法が拡がっているが、これは実質的には受託販売に相当する取引を通常の仕入取引のように装うものである。また日本における企業間取引には返品条項が含まれていることが多いし、事後調整によって取引価額がしばしば変更されるのも日本の取引の特徴の1つをなしている。最適リスク分担という点で、これらの日本的取引は合理性をもたないわけではないが、国際的な取引ルールには違背しており、いずれは新しいグローバルな手法に切り替えざるをえないものである。収益認識という視点からこれらの日本的取引の特徴を究明し、将来における収益認識のあり方を示しているのも、この研究の重要な成果である。
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