本年度は、わが国において各種法律によって現在認められている事業体の法的組織形態の特徴を検討し、各形態の税効果を比較した。従来の民法上の組合、匿名組合、会社および信託に加えて、平成17年に新たに認められた合同会社や有限責任事業組合が認められたり、平成18年の信託制度の改正によって、わが国では多様な事業体が認められるようになった。これらの事業体は、課税面では、パス・スルー課税(民法上の組合、匿名組合、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合、本文信託、集団投資信託)、法人課税(合同会社を含む会社、法人課税信託)およびペイ・スルー課税(特定目的会社、投資法人)という異なる属性を有していることから、これらの形態の使い分けによる租税回避の可能である。法的組織形態の税務属性の相違を利用した税負担軽減を税裁定と呼ぶ。税規制の歴史は税裁定を通じた租税回避の抑制の歴史といえる。ただし、各形態の採用に伴う税以外のコストは、無制限な税裁定を抑止する。そこで税規制は、税裁定の機会と税以外のコストの差を補うだけで十分となる。ところが、パス・スルー課税やペイ・スルー課税をもたらす形態は、法人格の付与等による取引コストの節約に加えて、柔軟な内部組織の採用や監視機関設置が不要であるなど、税以外のコストも低下する傾向がある。この結果、法的組織形態の税務属性を活用した租税回避を抑制するためには、大幅な税規制が必要になる。この観点から、近年の事業体課税をめぐる税制改正も、法的組織形態の税務属性を利用した租税回避の抑制を意図したものであることを示した。
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