「グローバル資本市場における会計基準の世界統合の意義と日本の選択」という研究課題を達成するためには、世界的レベルでの会計理論・制度に対するアプローチの変容に着目する必要がある。すなわち、現段階での会計理論・制度に対するアプローチは、古典的・真実利益アプローチから意思決定・有用性アプローチへ重点シフトしようとしている。そこでこれらのことを踏まえて、本年度は、まず意思決定・有用性アプローチの観点から形成されている、日米の概念フレームワークを検討した。その結果、日米の概念フレームワークは、類似している点もあるが、日本独自の基礎概念もあることが明らかになった。すなわち、会計情報の質的特徴における「内的な整合性」や「純資産概念」等は、米国や国際会計基準審議会(以下、IASBと略称)にもない日本独自の特徴であることが明確になった。これらの内容は、平成17年9月に日本会計研究学会(全国大会:関西大学)において共同で報告され、平成18年3月には、『会計利益計算の構造と論理』(共著)というタイトルで創成社より出版された。また平成17年度は、古典的・真実利益アプローチと意思決定・有用性アプローチの論理的特徴を解明するため、米国における1930〜1960年代までの重要文献を再検討した。ここでは、特に古典的・真実利益アプローチを採用しても、利益観としては収益費用中心観のみならず、資産負債中心観も内包していたことを明らかにしている。これらの内容は、『大分大学経済論集』(第57巻第1号と第57巻第2号)に掲載され、さらに武蔵大学会計学研究会(平成17年11月:武蔵大学)と九州アカンティング・フォーラム(平成18年3月:九州大学)において単独で報告され、会員の先生方から貴重な意見を賜った。さらに、平成18年3月に開催された「国際会計シンポジューム」(神戸大学)に出席し、EUの国の実状を聞くことができ、多くの知見を得ることができた。平成18年度は、IASBの概念フレームワークの検討と、個別の会計基準-ストック・オプション等-の国際比較をし、会計基準の世界統合の意義と日本の選択に関する研究に着手したいと考えている。
|