研究概要 |
本年度は,以下の3点を中心に研究を行った。 (1)会計基準のグローバル化が日本の産業社会に与えた影響の分析 90年代以降,日本の産業社会は金融ビッグバンに連動する会計基準のグローバル化への対応に多くのエネルギーを割いてきた。具体的には1997年〜2005年にかけて日本企業は大規模な会計制度改革を経験し、様々なコストを払ったが、さらに2005年前後からEUの「同等性評価」による国際会計基準採用の圧力を受けている。企業会計基準委員会をはじめ、経団連、金融庁、経産省、日本公認会計士協会、日本アナリスト協会等が、個々に、または連携して国際会計基準審議会に対応する様を分析した。 (2)専門家の招聘による会計基準転換の影響分析 国際会計基準の採用は取得原価主義を基本とする処分可能利益の計算から,公正価値評価による意思決定情報提供型の会計への転換を意味する。それが企業経営やマクロ経済にどのような影響を与えるのか,そのケース・スタディとして学会,経済界の専門家を招聘し,「生命保険会社の会計基準の転換」「イギリスの固定資産時価評価の導入過程における実務、基準設定主体、法律の相互作用」について報告を受け,活発な討論を展開した。 (3)国際会計基準に対する日本及び海外の国家戦略の分析 日本の対応とは対照的に,中国は国際会計基準の全面的受け入れを表明した。その意図はどこにあるのか,中国の会計実務が実際に国際会計基準に準拠しているのか,この点を調査するため,北京で精華大学教授(国会議員)や有力会計士にインタビューを行った。また国際会計基準推進の背後には国際会計基準委員会と世界会計士連盟の覇権争いがあるといわれる。それが国際会計基準にいかなる影響を与えているのか,この点について英国の会計学者にインタビューを行った。これらのインタビューを通じて多くの貴重な知見を得た。
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