初年度において実施した会計基準設定過程の理論的分析を踏まえ、平成18年度においてはニュージーランドと同じオセアニア地方のオーストラリアにおける公的部門の会計基準の設定過程についての検討を実施した。基本的には両国は密接な関係があり、会計専門職や会計関連学会も共催で大会を開くなどしており、公的部門及び民間部門の会計基準も共通の基準設定機関が認可している点も同じである。また、国際会計士連盟(IFAC)の下に設置されている国際公会計基準審議会(IPSASB)に積極的に参画している点も似ている。ただし、ニュージーランドと異なり学者や国会議員のなかには現金主義から発生主義に移行することにより議会統制が弱体化するのではないかという懐疑論がみられ、特にキャッシュフロー計算書における間接法の適用については現金主義下での科目別の総額支出が見えにくい形式になることへの批判がある。 次いで、民主制度下で最も重要なアクターである議員に対して前年度に実施した国会議員に対する調査と比較する目的から、平成18年度から記帳段階から複式簿記による発生主義会計を導入した東京都の都議会議員に対して財務書類の利用状況や会計基準設定のあり方や課題について調査を行った。国会議員と共通する点は、発生主義会計及び発生主義予算を支持する意見が多く、先進国で発生主義導入時に問題にされた理解困難性を訴える意見が少ないのがわが国の特色であることが判明した。一方、国会議員と異なる点は財務書類の利用状況は都議会議員の方が高いことである。ただし、追加調査した意思決定に使用する情報源としては公式の財務書類や評価書よりも地元の支持者や一般国民を挙げる者が多く、直接的な対話による情報が影響力をもち、公会計制度改革に並び統合された集計データをいかに個別のデータに照合させるかが意思決定改善に際し課題になることが明らかになった。
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