研究の目的は新たな営農志向が集合的に探求される可能性をさぐることにあった。本年度のねらいとして、1) 北海道東部の酪農地帯における調査の継続と報告準備、2) 山形県庄内地方での機関調査とインフォーマント聴取の補充、3) 北海道北空知地方での再エントリーを挙げ、また、研究期間を通じた課題として、4) 質的分析法・調査倫理についての最新の知見の検討を掲げてあった。とりくみの結果、道東の酪農地帯について2000年度から現在までに収集した資料の一部を4冊の資料集にまとめることができた。また、現地の酪農家のあいだでは、生産技術や経営戦略などだけでなく、家族関係やジェンダー、自然観や農業観、生活哲学や農村文化が伝承・創造の課題となっていることが明らかになった。山形県では、酒田市域を広く覆う「営農志向調査」を来年度または再来年度にかけて実行しうる見込みができた。これにより、当研究代表者を含む東北大学の研究チームが過去30年にわたって継続してきた調査研究の成果と接続することが可能となる。調査法や倫理についてはDictionary of Qualitative Inquiryの翻訳作業が完了し、2009年秋には出版される予定となった。これは国際的にも定評のある辞書であり、社会学的な質的分析についてひとつのスタンダードになることはまちがいない。このように研究は全般的には進行したが、フィールドワークは計画よりも遅延しがちであった。とくに、研究報告ができなかったことと、一部のフィールドは手つかずのまま終了したことなどは、計画からの大きな遅延であり、今後さらにとりくむ必要がある。遅延の原因は、(1)対象地でも模索中であることが多かったこと、(2)代表者の健康不安(19年度)、(3)学会の役職と重なってしまったこと(20年度)などである。
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