本研究は、「視覚経験と社会的世界の再帰的編制」をテーマに、その具体的様態を視覚社会学的な身体-自己像研究を通じて分析-提示することを目的とする。平成17年度はデータの蓄積・拡充に重点を置き、また、視覚的研究の方法論的発展・整備を試みた。 1.自叙的イメージ研究:分析用データベースの作成 国内の複数の大学の大学生約160人に自叙的写真の撮影と写真の説明記述を依頼した。自叙的写真の撮影とは「私は誰か?」という問いに写真撮影をもって回答することである。149人分の総計3847点の写真と1490点の記述は、一部の被験者から提供された自叙的ビデオクリップとともに、本研究に先行する予備研究の成果をふまえてデータベース化された。データは今後、写真説明記述と並行して行なった身体-自己像評定調査と併せて、被写体ならびにフレーミングという観点から内容分析される。 2.生活世界の視覚的研究:主観的視覚世界の可視化の試み 予備研究ならびに上記研究の被験者から募った参加者14人に大学-友人-家族-身体-日常という5つのテーマによる写真撮影を依頼した。撮影は各テーマごとに50点程度なされ、写真にもとづくインタビュー調査(イメージ誘出的インタビュー)を随時実施するものとした。一連の作業は平成17年秋に開始し、現在継続中である。データは、上述のそれを発展させたデータベースに集約され、インタビューをふまえて内容分析される。 3.視覚世界の可視化法研究:美術館経験のフレーミング・マップ作成の試み 「主観的視覚世界の可視化」をめぐる方法論を整備し、強化する目的で、福岡市内の公立美術館の協力を得て来館者による館内撮影調査を実施した。計3回の調査期間に一般来館者並びに関係者計約200人が撮影した約8000点の写真を用いて、展示品等への来館者の関与のあり方を視覚的に表示-分析するためのフレーミング・マップを作成した。
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