本研究は身体-自己像を題材にした視覚社会学的研究であり、ヴィジュアル・メソッドによる「視覚経験と社会的世界の再帰的編制」研究の推進を企図している。直接の作業課題は、1)自叙的イメージ法を用いた日常経験の視覚データ化/データベース構築、2)イメージの内容分析とイメージ誘出的インタビューによる生活世界分析、そして、3)イメージ生成とインタビューを軸にしたヴィジュアル・メソッドの定式化と評価だった。 2007年は、整備してきた3つのデータ・セットについて、データの一部追加作成と検討/再検討を行なった。すなわち、1)149人(2005)/167人(2007)の大学生が撮影した自叙的写真とその説明記述、2)14人の大学生が1年間継続撮影した自叙的写真と継続インタビュー、そして、3)比較対照を目的に作成した特定の場所の経験をめぐる視覚データ群(美術館来館者による館内撮影写真とそれによるインタビュー[2005-2007年に5回実施])である。それぞれデータベースに集約し、内容分析・言説分析を行なった。 自己を焦点とした生活世界は、少なくとも本研究の大学生たちの場合、主にモノとの関わりで編制されていた。欧米の関連研究では対人関係(友人や家族)や社会的・個人的活動の直接的表象が多数報告されるのに対して、本研究の対象者たちが作成するイメージは主に私的持ち物や日常的使用物から成る。彼/彼女たちの現実は孤立的ではないけれども生活世界像は私秘的である。しかしまた、個々のイメージのあり様/構成はそれほど多様ではない。データベースは、モノ依存的に構成される均質な私秘性の世界を集約している。それはまた、来館者の美術館経験から生成された視覚データが思いのほか多彩でないこととも符合する。そしてヴィジュアル・メソッドは、これらのことを対象者自身に気づかせ、かつまた調査研究への一層の関与を促す、ある種再帰的な方法でもあった。
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