この研究は、「視覚経験と社会的世界の再帰的編制」を主題にした視覚社会学的な日常生活探究の試みである。作業課題は、1)自叙的イメージ法による日常生活経験の視覚データ化とデータベース作成、2)イメージ(画像)の内容分析とイメージ誘出的インタビューによる生活世界分析、3)イメージと言説を軸にしたヴィジュアル・メソッドの定式化と評価・検討、であった。 自叙的イメージ法は、被験者たちが「私が見る私」という題目で撮影した写真と説明記述とをイメージ・データベースに集約し、日常生活世界を主観的経験近似的に表象する試みである。最終的に確定された大学生310人のイメージと言説の内容分析は、さほど多様とはいえない愛用物と交友圏とからなる、孤立的ではないけれども私秘的な、しかしむしろ均質な生活世界を描き出した。欧米の研究に多い家族関係や個人的・社会的活動の表象があまり見られず、自分自身の身体/外見のイメージが少ないのは、一方では写真撮影の易難・成否という手法的制約のゆえだろうが、他方で学生たちの日常生活表象が思いのほか静態的で低=自己呈示的だということなのかもしれない。 これに絡めて、テーマ指定(大学、友人、家族、身体、自分)した継続的写真撮影と口述説明を14人の被験者に求めてデータを拡充した。テーマを直截には画像化しない、いわば代替的イメージ化が少なからず確認されるなど、経験と視覚データの相互対応の程度と質をめぐる検討の必要が明らかになった。また、比較対照を目的に、イメージ/言説を用いた調査を別途、場所(ミュージアム)経験を主題にして実施した。調査自体が来館者の経験活性化の媒体になったことは発見だったが、その一方で館内経験の表象は思いのほか多様でも多彩でもなかった。また総じて、詳細・大量に生まれるデータの処理と解釈の方法論的再検討が、まだなお今後の大きな課題である。
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