1980年代末期からのIT革新は、諸機関や人々の生活に大きな影響を与えている。このIT情報化に関わるSEなど情報職業者の職務も、職人的要素もあった1970〜80年代のソフトウェア開発労働などとはかなり異なり、一方では、絶え間なく改良される世界的に標準化された情報技術への対応・適応能力が求められているが、他方では、その技術の標準化ゆえに、激増する顧客の企業・機関・人などが有する具体的ニーズの内実理解能力、それを満たす情報システムを構築する能力、また職務遂行に伴う顧客とのトラブル克服や生産チーム運営の円滑化のためのコミュニケーション能力などが求められている。本研究では、この「新たな社会的能力」の内実やその形成過程を、情報社会の中での情報職業の特質についての理論検討をはじめ、浜松と東京・札幌の情報サービス業事業所調査、浜松の情報職業者の経歴と職務についての調査、名古屋市などの電子自治体構築に関わる各部署職員の情報化対応についての調査、浜松の主要大手企業技術者の経歴と職務についての調査などから考察した。 理論的検討からは、現在の情報職業者に要請されている「新たな社会的能力」が、第一に、「日本的経営」の解体化傾向のもとでの流動性の高まりや外国人労働者との接触の増加などを背景に、「安定への欲求」の非充足をも契機とする「社会性への欲求」昂進に関わって形成されていること、第二に、ますます要請される個人的なキャリア形成志向を軸に、所属企業とそれ以外の社会に対する能動的な関わりが求められることと同時に発現されることが明らかとなった。具体的には、(1)浜松のインターネット関連サービス業で求められているのは、顧客対応のきわめてフレキシブルな能力であり、(2)SEにおいては、これまでの組織慣習・領域を絶えず超える新たなシステム形成のための関係者とのコミュニケーションの実現能力であり、(3)ITコーディネータにおいては、要請される顧客や関係者の個人的・組織的要望の内実理解や新たな了解関係の構築能力などである。また、(4)製造業技術者のキャリア形成過程分析からは、特定技術・製品・プロジェクトへの努力傾注などを介して、「自分の会社」を形成しているとの意識を醸成している姿を抽出することができた。
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