シカゴ学派の逸脱研究の現代的意義を問うことが本研究の主眼である。本年度は、現代の研究・教育にシカゴ学派がどれだけ生かされているのかを知るために、逸脱研究と教育プログラムが充実しているSan Diego State Universityの実地観察を行い、あわせてアメリカの主要大学の逸脱とコントロール、犯罪学に関する講義カタログやシラバスを調べた。さらに、こうした調査とシカゴ学派のモノグラフの研究から以下のことが明らかになった。 (1)最先端の他の逸脱・犯罪研究では計量的方法が主流で、大学院プログラムも計量的手法に重点が置かれている。シカゴ学派の質的研究は現代ではマイナーなようにみえる。若手の計量分析を駆使する研究者とのインタービューでは、「いまさらなぜシカゴ学派なの」という疑問も出された。 (2)しかし、シカゴ学派の研究の意義が失われたわけではない。ターニングポイントとなる逸脱研究の多くは質的研究に基づくものであることを、現代の研究者も認めている。またリタイアした名誉教授などは、現代の大学院生は購入したデータファイルを計量的に操作するだけで、逸脱者に直接会ったこともなくPh.D.を書き上げると憂いている。 (3)シカゴ学派を再生する動きは、社会解体論やキャリア分析を現代の非行研究に活用するSampsonの研究に見出される。シカゴ学派から展開可能なもうひとつ方法として、「社会学的ナラティブ」を提起したい。このナラティブを構成するのは「社会的世界論のパースペクティブ」「質的及び計量的データに基づく語り」「社会過程を記述」「理論的説明」「自省的ナラティブ」である。 (4)この方法によって、「街頭犯罪」や「ビジネス世界の悪徳」、「社会的世界の抗争」を一貫した視点から捉えることができる。いずれも、「問題状況」の解決に逸脱が必要であるとの定義が社会的コントロールを凌駕するときに生じると仮定される。
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