シカゴ学派の逸脱研究に関してこれまで理論的視点、方法論、モノグラフの3点にわたって行ない、同時のシカゴ学派の応用可能性を検証してきた。本年度はこのうち方法論と、モノグラフ群の中の組織体逸脱の再検討を行った。明らかにできたことは以下の点である。 (1)組織体逸脱・企業犯罪・ホワイトカラー犯罪等さまざまな名称でよばれているが、この分野での中心はサザランドである。シカゴ学派の内部で彼の占める位置は、学派共通の社会解体論の伝統を継承しつつ、新たに相互作用論の視点を取り入れ、しかも計量的な方法と質的研究法の統合を図った点で、もっとも影響力の強い研究者である。 (2)彼の差異的接触論と社会解体論および、彼の影響を受けたその後の企業逸脱に関する研究のサーベイから、以下のような命題を得ることができる。 2-1.市場環境・技術環境・コントロール環境は企業逸脱と相関する。 2-2.企業は直面する「問題状況」を、違法な手段によって解決できると「状況の定義」し、その定義を支持する「企業文化」が存在するときに逸脱が生じやすい。 2-3.企業逸脱が実行されるのは、組織の管理システムが逸脱をサポートする体制となっているときである。 2-4.組織内部で企業行為を相互にチェックする機能が働きにくい組織ほど、企業逸脱を回避し難い。 2-5.組織内部の情報伝達が円滑でなくて、企業行為のミスやリスクに関する情報が全体で共有されることが少ないほど、企業逸脱は回避され難い。 (3)これらの命題のうちで説明力の高いのはどれかを検証するために、戦後日本での食品業界の企業逸脱を分析した。その結果、安全軽視型・利益本位型・逸脱誘因型・組織弛緩型のいずれも関係している命題は、2-2であることが判明した。 (4)シカゴ学派の理想とした方法論は各種の統計と事例研究の統合であるが、その有効性はサザランドの研究の検証からも支持できる。
|