本年度も、アウトドア活動の現場におけるフィールドワークによる取材活動を通して、本研究の課題であるアウトドア活動におけるコミュニケーションの観察と資料収集を中心に研究を行った。引き続き、教育現場に限定しない一般登山者、ハイカーの意識についての観察を通して、仲間(共同体)形成にかかわる諸相に関する定性的データ資料を収集した。 本年度の調査の特徴は、新たな調査対象として、視覚障害者に対するクライミングスクール運営を中心に活動しているNPO法人「Monkey Magic」のクライミングスクールの取材を行うことができたことである。視覚障害者と晴眼者との共同参加を主眼とするこの団体の活動を調査することにより、「コミュニケーション」「共同体意識」を考察する際の「言語使用」がいかに既成概念による制限を受けているかが浮き彫りになった。特に身体的活動が中心となるアウトドア現場において、視覚が制限されている「仲間」との間で交わされる言語コミュニケーションの困難については、今後さらに観察する必要がある。 文献調査としては、アメリカのアウトドアライティング関連の文献の調査結果を、論文としてまとめ、また、日本アメリカ文学会関西支部例会において口頭発表し、「アウトドアライティング」のジャンルとしての形成のメカニズムを批判的に考察した。さらに、いわゆる質的調査、定性的調査に関する文献を研究し、社会学、文化研究において往目されるエスノグラフィー(民族誌)作成の可能性について考察した。この成果の一部については、2008年5月刊行の言語文化研究プロジェクト2007「アメリカ文化研究の可能性VI」の報告書において公表する。
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