本研究は、日本の美意識と名誉概念の関係を検討し、一般的には、表現と規範の関係について、具体的には、ノブレス・オブリージュ(位高ければ徳高かるべし)の日本固有の文化的特性について文化社会学の視点から明らかにすることである。研究の結果、次の知見が得られた。 1 美意識と名誉の関係の一端について、表出的行為・表出的シンボル概念、および、社会学的な名誉概念(ヴェーバー、ジンメル、デュルケーム、ゴフマン、バーガー)を検討することによって、一般的、理論的に明らかにし、「ノブレス・オブリージュ」観念、「非論理的行為」・「エリート」概念などについて、オルテガやパレートの所説を部分的に検討した。 2 山本常朝の『葉隠』(1710-16)、新渡戸稲造の『武士道』(1899)、三島由紀夫の『葉隠入門』(1967)、『行動学入門』(1970)を検討することによって、近世/近代/現代における武士道思想の差異と展開についてノブレス・オブリージュの観点から部分的に明らかにした。 3 名誉と美の関係について、「切腹」の社会学的、歴史学的な検討によりノブレス・オブリージュの観点から明らかにした。 4 特攻隊関係の文献、資料、聞き取り調査結果を検討し、特攻隊のエートスの一端を明らかにした。 5 日本の各界の指導的地位にある人物(政治家、経営者、歌舞伎俳優、刀匠、宗教家など)21名、ロシアの企業家、ロシア正教神父、バレリーナ、バイオリニスト、柔道指導者など9名への聞き取り調査結果を纏め、現代におけるノブレス・オブリージュの意味合いについて、日露比較も念頭に入れながら議論した。
|