道徳意識に関する経験的研究においては、一定の規範的命題に対する選好を1次元的に測定・評価するのではなく、まず、道徳意識の多元的・重層的特性を把握することが不可欠であると考えた。本研究においては、このような理論的・方法論的反省にもとづき、個々の規範を集合化する<類縁化作用>に着目して道徳意識を記述・分析する<類縁化アプローチ>を構築・展開することを試みてきた。そして、本年度の研究においては、この<類縁化アプローチ>の理論的基礎付けと比較研究のためのインフォーマント調査を主たる課題としてきた。 このうち前者の理論的基礎付けに関しては、L.コールバーグらの道徳意識研究における根本的な問題点が、厳格なホーリズムにあることを明らかにした。この立場が、道徳意識における揺らぎや変容を捉える上で困難をもたらしていた。<類縁化アプローチ>の観点からすれば、<他者危害>概念のような比較的安定した構成要素と、<自己危害>概念のような不安定で変容しやすい構成要素の二重性こそが、理論的前提として必要であることがわかった。 他方、経験的研究の側面においては、類縁化作用の普遍性と個別性に着目して、比較文化的な実証研究の準備を進めてきた。日程の都合により現地でのインタビュー調査こそ実現できなかったが、台北およびシドニーの研究者と頻繁に連絡を取り合い、来年度の本調査をより実りあるものにするための議論を行ってきた。また、留学生を対象にインフォーマント調査も行い、青少年の具体的な逸脱類型に関する情報収集を行ってきた。
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