平成19年度の研究においては、これまで行ってきた青少年の非行観に関する調査研究のデータを再分析することによって、道徳意識の形成メカニズムに関する新しい知見を得た。青年期にみられる道徳意識の揺らぎは、<規範意識の低下>等、否定的な意味合いで捉えられることが多かったが、それは規範の序列化という道徳意識の再組織化の一面を示していることが明らかになった。すなわち、青年期における規範の否定や失効は、他の規範の優先や序列形成を意味しており、そこに一定の類型化と序列のステップが存在していた。 これらの知見は、これまでの社会化論や道徳的発達論を根本から転換する、非常に画期的なものである。研究代表者は、道徳意識にみられるこうした類型と序列化のあり方を、<悪>のグレースケールと呼び、問題処理能力の向上を示すものとして位置づけた。そして、様々な<悪>の理由づけを理解し、一応の序列化をしておくことが、多元的な社会における人間形成の基盤であると捉えた。社会化や道徳的発達に関するこうした捉え方は、理想的な社会像や人間像を前提に語られてきた「教育言説」としての社会化論や発達論と完全に異なるものである。現代社会における人間形成は、特定の善や正義の概念に向かうものではなく、<悪>についての直観をベースに、それを洗練し、序列化していくプロセスであることが明らかになった。 また、青少年の性行動に関する全国調査のデータをベースに、性に関する規範意識が愛情への価値づけと密接に関連すること、愛情に対する価値づけが強まったからこそ、青少年の性行動が活発化したことを明らかにした。そして、性規範は性行動を抑制する装置ではなく、むしろ性行動の自己決定を強め、促進する働きをもつことを明らかにした。この点からすると性規範は、道徳意識の自律性を高めるトリガーであると考えられる。
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