本年度は、I秩序問題の社会学的検討、II意識調査に現れた高校生の価値観の研究という2つの課題を遂行した。まずI秩序問題の社会学的検討では、戦後理論社会学を代表する2人の社会学者パーソンズとルーマンの社会システム論の違いを明らかにした。パーソンズの場合、全体社会システムとサブシステムは、<全体-部分>の関係にあり、全体に対するサブシステムの貢献が全体社会システムの維持・発展に貢献すると考えられていた。 これに対し、ルーマンの考える機能分化は、全体の分割ではなくて、「同じ外延を有する円盤が積み重ねられている」イメージとして捉えられており、パースペクティブの多重化として理解されているし、この多重化したパースペクティブを統合するようなものはないとされている。ルーマンの主張する通り、法システムが法的コミュニケーションとして、経済システムが経済コミュニケーションとして成立しているとするならば、これらを統合するものはなくなってしまう。社会全体を貫通する自由や正義といった価値について考えることが困難になるのが、ルーマンの社会システム論の最大の問題点であることが明らかになった。 II意識調査に現れた高校生の価値観の研究では、(1)2001年から2004年までの3年間に、高校生の規範意識に大きな変化がないこと、(2)2005年に実施した高校生の規範意識調査では、高校生の価値観として、ホット志向のみならず、ウォーム志向が顕著になっていることが発見され、若者の尊重する新しい「やさしさ」が調査データによって確認された。このウォーム志向は、個人化の趨勢の一環として登場してきたものと考えられる。 以上2つ課題の遂行を通して、21世紀の日本社会における公共性は、若者における新しい価値観の台頭にマッチする形で考察することの重要性が明らかになった。
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