本年度は、平成17年度の進行状況をふまえて、以下の2つの課題を遂行した。 I公共性概念の思想史的・理論的検討 1.市民社会概念及び公共性概念の基礎をなす個人主義の検討 個人主義は、(1)個人を確定できる、(2)自己決定できるということを中核的な原理にしている。そこで(1)個人を確定できるのか、個人Aと個人Bは必ず排他的な存在であるのか、(2)個人はいつも主体的な自己決定をできるのかということについて考察した。その結果(1)については、重なりあう個人の場合には、個人Aと個人Bは相互排他的ではないこと、(2)については、医師からインフォームドコンセントがなされたとしても自己決定できない患者がいること、認知症の高齢者の場合には自己決定できないことなどが明らかになった。もちろんこれらの事例は、原理としての個人主義を全面否定するものではない。しかしこれらの事例によって、近代社会において、個人主義がいわばフィクション(理念的実在)として構築され、そのフィクションによって社会の制度が整序されていることを明らかにするものである。したがって21世紀社会では、この個人主義ではおおいつくせない部分について、いかなる原理を構築するかが重要になってくるのである。また個人主義との関係で、思想としてのネオリベラリズム(市場原理の重視と規制緩和、自己実現欲求の尊重と自己責任論)について、どう考えるかが重要であることも明らかになった。 2.公共性概念と正義について(1)公共性概念を考える上で正義の概念が重要であること、(2)正義をpositiveに定義することはかなり困難だが、社会には正/不正の2分コードがあること、(3)不正については社会にある程度の合意があること、(4)したがって正義の実現ではなくて不正の減算が重要であることを明らかにした。 II秩序観・公共性観の社会学的分析 1.戦後日本社会における秩序観・公共性観の変容の分析戦後日本における地域社会の変容の分析を通して、「公」の概念は、戦後社会のなかで縮小し、「私」の概念が拡大したのではないかという知見を得た。
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