1.環境運動における個人の克服過程について、以下の事例研究を実施した。 (1)カネミ油症問題に関して、被害者の実態調査を行った。特に、長崎市内に居住する玉之浦町出身の男性、発症当時は福岡にいた長崎市内の女性、さらに、被害者運動を担っていた福岡在住の女性3名に、数回のヒアリングを行った。同時に、長崎市、福岡県、玉之浦町の年表作成も行った。 (2)長野県白馬村八方尾根の自然保護活動をめぐる状況調査に関しては、冬期の観光客入りこみ数の経年変化、夏期の観光客入りこみ数の経年変化、また修学旅行生の訪問の経年変化をデータとして収集した。さらにコモンズ論を使いながら、白馬村の自然保護に関して分析した。 (3)長崎県内の棚田の保全活動に関する調査では、合併して長崎市となった旧外海町の大中尾棚田の営農者と棚田オーナーになっている方にヒアリング調査を行った。同時に旧外海町に関する資料収集も行った。長崎県内の棚田保全組織に関しては、その現状と課題を分析し、事例研究として『棚田学会誌』第6号に掲載された。 (4)新潟水俣病問題に関しては、これまで収集した資料やヒアリングなどを基にして運動論などに関する文献を収集し、分析した。 2.個人の克服過程と環境運動の相互規定関係の解明に関しては、以下のとおりである。 (1)今回、カネミ油症被害者に対してもヒアリング調査を行ってきたが、他の公害問題と違い、地域性がほとんど見られないことから、環境運動の孤立性が存在していることがわかった。そのため、事例によっては新潟水俣病問題よりも、被害者運動が個人の克服過程に強く規定しているといえる。油症問題は非常に個人のライフヒストリーが重視されるべきであった。 (2)自然保護に関する環境運動は、本年度はコモンズ論を駆使して分析した。しかしながら、ヒアリングや他の資料を基にして分析した結果では、自然保護に対する意識よりも、日常生活の中に存在する自然に対する意識が変化したことにより、保護のあり方が変更されたということが確認された。そのような変更が保護の継続性を保証していた。
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