研究概要 |
長崎県を中心としたカネミ油症事件,長野県白馬村八方尾根の自然保護の問題,さらに長崎県を中心とした棚田の保全活動について,特に個人主体に着目をして,その克服過程を調査研究してきた。 食品公害であるカネミ油症事件では,水俣病事件と同様に「被害者は被害を隠す」状態であった。しかしながら,子どもの頃にカネミ製のライスオイルを食した人々が子どもを産む世代となり,子どもにもその影響が出ていると思われたことをーつの背景として,運動主体として顕在化してきたことがわかった。それらの運動が,個々の主体にとってどのような影響を与え,さらにどのように内在化されているのか,今後の調査研究が必要かと思われたが,一段落としてカネミ油症事件の若い世代による運動が,支援者の力とともに,一つの救済法を確立したことが確認された。次に,長野県白馬村八方尾根の自然保護問題では,1998年の長野冬季五輪に関わるスタート地点問題が,地元において環境意識をどのように育み,変容させていったのかを調査研究し,明らかにした。自分たちの山という感覚で,スキー場を切り開いていった八方尾根の人々だが,長野冬季五輪を契機として,その山へのまなざしをかえていったことがわかった。 最後の棚田の保全に関しては,営農者と都市住民であるオーナーの人々へのヒアリングを通じて,ともに棚田の魅力を引き出そうとする他の都市住民への啓発活動に近い形で運動を担っていることが確認された。 保全活動の場合は「克服」というタイトな言葉で言い表すことが適切か否かが問われるところであるが,棚田崩壊に対する克服という点から,克服過程に着目した次第である。
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