家族ケアラーを対象にした手引書、すなわち、健常児を想定した育児書、障害児の保護者を対象にした育児・療育書、高齢者家庭介護の手引書の分析より、健常児の育児、障害児の育児、高齢者介護に関わる社会規範、ケアラーに対する役割期待を比較分析し、以下のことが明らかになった。高齢者介護に関しては、全体として規範拘束性が低かった。すなわち、介護家族に対する責任の強調が低く、"楽に"介護すること等、ケア負担への配慮がなされていた。また家族がケア役割に一元化されることもなく、"自分"の生活をもつことが容認されていた。さらにケア役割担当が一人に固定されることなく、外部サービスや制度の利用など、ケア役割の分担が推奨されていた。健常児の育児では、まず母親をケアの担当者とする前提がみられ、母親の責任が強調されていた。しかし、父親の補助的なケア役割への参加も推奨され、母親の負担への配慮がなされていた。またケア役割への一元化はなされず、仕事を持つ等、"自分"の生活を持つことは容認されていた。一方、障害児の育児・療育では、規範拘束性の高さがうかがわれた。ここでは、ケア担当は母親に同定され、責任が強調されていた。ケア役割の分担についても、健常児でみられた父親のケア役割への参加も言及がなかった。児の障害の軽減に関わる治療者としての役割への専従が母親に求められ、母親のケア役割への一元化がなされていた。母親が"自分"の生活をもつこと、あるいはケア負担についてほとんど言及がなかったが、唯一、兄弟児に対するケアについては期待されており、障害児の母親のケア役割拡大の期待がみられた。
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