本年度の研究課題は、(1)1931〜32年に旧羽地村周辺で起きた「嵐山事件」から旧沖縄縣時代のハンセン病問題の現実を照射すること、(2)ハンセン病経験者の生を照射する社会理論の開拓、(3)沖縄本島・宮古・人重山各群島区のハンセン病問題関連資料の蒐集、の3点に整理できる。 上記の研究課題(1)は、第79回日本社会学会大会での学会発表をもとに、論文「複数の嵐山事件」に研究成果をまとめた。同論文では、地域住民、沖縄縣、ハンセン病患者の3者の利害関心の絡み合いから、「嵐山事件」の、ハンセン病排斥運動のみに還元しえぬ複数の位相をつきとめた。「嵐山事件」の背景には、沖縄縣による(特にハンセン病に対する)医療行政の失態、「ソテツ地獄」といわれる沖縄経済の不振と社会的混乱が横たわっていた。この点で、「嵐山事件」は、沖縄縣に対する革新運動という色彩を帯びる。「嵐山事件」は、「大宜味村政革新運動」の連帯を受け、社会主義の運動理論により組織されたが故に、沖縄縣と対峙することが出来たといえよう。 上記の研究課題(2)は、2006年9月9日〜10日に神戸大学で開催された「第3回パーソンズセミナー・シンポジウム"parsons and After"で、「社会的行為論と<生きがい>の問題-シュッツ・パーソンズ問題のための序論-」と題する研究発表を行なった。神谷美恵子の「生きがい」論はハンセン病経験者の生を照射する先駆的な研究成果の一つであるが、この問題系を社会学の視座から捉え返し、生を機軸とする新しい社会理論を開拓することが本課題の目的であり、その社会学的端緒は社会的行為論にある。本発表では、シュッツとパーソンズの『往復書簡』において両者が論及した「動機の体系」を統御する上位概念として、神谷の「生きがい」概念が位置づけられることを論証した。 上記の研究課題(3)は、沖縄県立図書館・名護市立中央図書館等で、文献検索を行なった。
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