研究課題
基盤研究(C)
もっとも大きな研究成果は、社会階層・社会移動研究の新しいアプローチを提示したことである。既存研究で世代間移動表を調査時点間で比較する方法が主であったが、この方法では出身階層と本人教育が本人の職業的地位におよぼす影響の時間的変化を正確には捉えられないという問題点があった。これを克服するために、初職に就職した時点とその後の時間経過にともなう変化、つまり諸個人のライフコースの時間経過にともなう階層的影響の変化をとらえるライフコース移動アプローチおよびその分析モデルを提示した。このアプローチにしたがって、日本で1955年から2005年まで実施されたSSM調査を対象に分析した結果、出身階層と本人教育による影響は初職就職時点およびその後の就労年数にともなって変化してきた一方で、初職の現職にたいする影響ははるかに強く、就労年数にともなう変化パターンが一定であった。これらの結果は、学歴メリットクラシーが浸透してきたことと、現職にたいする世代内移動の影響が強いことを示すものであった。また社会移動の帰結としての現職が、拡大しているとされる所得格差にどのように寄与したかを分析した結果、マクロにみた所得格差を拡大させたのは、非正規雇用の増大とともに、夫婦ともに正規雇用でない高齢世帯の増大であることが確認された。この知見は、既存研究がその分析対象から非正規雇用および無職を除外してきた問題点を明確にした。また、教育達成にかんしては、日本、台湾、韓国の3ヵ国比較を行った結果、日本の女性において親子の学歴の関連が他よりも強く、他の相違や時間的変化は確認されなかった。このように、とくに日本の社会移動機会格差については、変化しない教育達成格差、変化する世代間移動格差、強固な世代内移動格差、所得格差の拡大といった知見を包括的に検討することが今後の課題として残った。
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