本研究は、「第二次関東大震災・朝鮮人虐殺」というメタファーによって表現されるような、一見まだなにも起こっていないように見える日常の些事の中から、"未発の事件"の徴候を察知し予見的に認識する社会的マイノリティへの識者調査をおこなうことを調査研究の主眼として、研究代表者(と調査の歩みをともにしてきた若手研究者)が、5年から10年かけて信頼関係を培ってきた識者(フィールドで人望を集めるキーパーソンであり地域社会における危機の予見的認識の主体)に協力をお願いし、既に承諾を得ている方たちを中心に、地域社会内部の社会・文化的コンフリクトの生成・変容と抑圧移譲、「治安強化」と「外国人/障害者/青少年問題」の「発見」、家族内の暴力と抑圧移譲などについての調査研究をおこなった。 1.これまで蓄積してきた調査研究における知見を分析・整理するためにインテンシブな研究会を定期的におこない、研究会での討論に基づき、参与観察、識者調査、資料収集を実施した。 2.参与観察と識者調査、研究会での議論の進展と深化にともなって、地域社会における「危機」の顕在化の折に自らが異物・異端として排除されることへの予見的認識をもつ人々("地識人(the streetwise/the wise on the street)")にとって、対位的に存在している人々(抑圧移譲の主体)の存在が浮かび上がった。 3.この抑圧移譲の主体となる人々を、intellectual massesという概念によって析出し、危機の予見的認識の主体である"地識人(the streetwise/the wise on the street)"と対位させつつ調査研究をさらに深化させるという見通しを立て成果をとりまとめた。 4.成果のとりまとめにあたっては、「ペリペティア」(ルカーチ)と「対位」(サイード)の方法をとることを選択し、これまでの調査研究の蓄積の中から、いくつかの特定の「事件」が顕わになるまでのプロセスをとりあげ、その中で、"intellectual massesと"地識人(the streetwise)"とを対位させて叙述することを試みた。
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