平成17年度の調査研究は、(1)生活記録運動の実態調査、(2)ライフストーリー論の検討、(3)「ふだん」運動研究の総括のなかで位置づける文章運動としての特徴の分析とリテラシー論の系譜の検討、これらの3点を中心におこなった。 (1)生活記録運動の実態調査は、生活記録運動全体の実態把握と生活記録作品の収集を手がけ始めることで着手した。生活記録運動の端緒となった『山びこ学校』や生活綴方運動の作品の流れを押さえつつ1950年代の状況の調査をおこなったが、次年度以降も継続していく。 (2)ライフストーリー論の検討として、ライフストーリーをめぐる議論の活発な現況を概観し、質的研究方法としての特徴と意義をあきらかにする方法論的検討をおこない、『ライフストーリー・インタビュー』(桜井厚との共著)にまとめた。 (3)「ふだん記」運動研究の研究成果を、『「ふだん記」運動の展開と戦後のリテラシーの変容に関する実証的研究』(平成15・16年度科学研究費補助金基盤研究(C)(2)研究成果報告書)としてまとめるなかで文章運動とリテラシー論の系譜の検討にも取り組んだ。この報告書では「ふだん記」運動全体のなかで生み出された作品を収集してデジタルデータ化しながら作品の内容分析を試みたが、同時に1968年の『ふだんぎ』創刊に至る前段階の50年代から60年代の状況に注目して、どのような経緯で『ふだんぎ』空間が成立したのかをあきらかにした。「ふだん記」運動の研究は、生活記録運動の研究とともに書くリテラシーの変遷をめぐる議論の展開の一翼をになうものである。
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