初年度はまず、本研究の基礎を構成し基準点となる「現実」の概念規定にかかわる「視覚行為の構成」と、この視覚行為による「現実の構成」の二つの課題を明らかにすることを目的とし、次の二つ方法で重点的に調査と観察を行った。第一に、見る者は、自らの見る行為を、いかに組み立て遂行するのかの「視覚行為の構成」を扱うために、実際に「現実を見る行為」、つまり見ることを目的としこれに特化している観光旅行の参与観察と観光地での調査を実行した。この見るという観光行為の参与観察をもとに、対象指示行為・参照行為・確認行為・準備や予備行為等の様々な活動が、どのように見る視覚行為にと仕立て上げられ、結晶化されていくのかの、現実を見る行為の基本的なあり方、見る行為を作り上げている構成要素を分析することになる。次に、この視覚行為の中で、どのように現実が組み立てられるのかの視覚による「現実の構成」の問題を、同じように、観察者が観察を行う際に見て参考にしたテクスト、ガイドブック、文献、図版、写真、画像などの資料が、どのように見られ用いられたのかを考察することにより捉える。以上の二点に関する調査を踏まえ、ヴァーチャル・リアリティを見る行為と比較することで、ヴァーチャル・リアリティを見る見方は実際の現実を見てこれを構成する仕方と、基本的にどの様に異なり、ヴァーチャルな世界をどのようなものとして構成し位置づけることになるのか、現実の視覚や身体運動にどの様にフィード・バックされるのかの検討に入ることになる。さらに、今年度は、「真正性」の問題を歴史的に追究し、実際にものを見るという視覚の真正性を自己の真正性の問題と結びつけ、インターフェイスの概念からこの点を考えた。これを下記の書物に成果として発表する予定である。
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