ポストヒューマンの「視覚」の問題、つまり、「現実」を見ることと「ヴァーチャル」なものを見ることとが、どの様に関連づけられているのかを研究課題としてきた。今回は、絵画やコンピュータなどのヴァーチャル・リアリティを見つめる視覚の中で、ポストヒューマンのメンタリティやアイデンティティがどのように構成されるのかを「真正性」や「ほんもの」という概念を用いて検討を行った。まず、真正性と現実を見ることとヴァーチャルなものを見ることとの違いをこの概念によって明確にし、個性化の過程が真正な自己を作り上げてゆくことを指摘した。自己の真正性は、シミュラクルでヴァーチャルな電子画面ではなく、現実を見ることにより自己が作り上げるものであり、真正性とほんものの現実を実際に見るという身体感覚的で意識的体験とは、心身一元的に連動しているといえるのである。次に、この真正性と象徴やイマージュとの関係を捉え、ベルグソンに従いイマージュとしての物質が、抽象された観念的な象徴であるとともに知覚され自己の移入がなされる具体的な対象を越えた存在ではないのならば、これは不可視なものをともなった可視的な対象以外の何ものでもなく、「見えながらも見えない」象徴を含んだ対象、このような存在がわれわれを真正な自己へと導きこれを構成させることを指摘した。さらに、自己とは区別され自己を外化し移入することで真正な自己を構成する対象を「他性」として規定し、第三の問題として、他性の意義について多様な検討を加えた。イマージュとしての他性が知覚されるものを越えては求められないのならば、これはまさに「視覚」の内で見られ捉えられ出会われる対象であり、ヴァーチャル・リアリティではなく現実の中で他性と出会いこれを見ることにより真正な自己がいかに構成されるのか、といった問題が次の課題として残された。
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