研究課題
基盤研究(C)
本研究は、「ポストヒューマン」、すなわち「物質と情報との異成分間の境界が取り払われ、これらが連続的に構成された合成体」の概念を前提にして、これと「視覚」の問題を研究課題とし、「現実」を見ることと「ヴァーチャル」なものを見ることとが、どの様に関連づけられるのかにつての分析の一環をなすものである。ポストヒューマンは現実をこの眼で直接見ない。彼らが見るものはDVDやHDの映像、テレビ、コンピュータ、携帯電話などの画面であり、これらのインターフェイスを介してものを見る。今回は、これらを見つめる視覚を扱うに際し問題となる事柄、すなわち、見られる対象である「他性」の問題と、これを見ることと自己の「真正性」や「ほんもの」との関連について検討を行った。まず、個性化の過程が真正な自己を作り上げてゆくことを指摘し、現実を見ることとヴァーチャルなものを見ることとの違いを真正性の概念によって明確にした。自己の真正性は、電子画面上のシミュラクルでヴァーチャルな像ではなく、現実を見ることにより自己が作り上げるものであり、真正性とほんものの現実を実際に見るという身体感覚的で意識的な体験とは、心身一元的に連動しているといえるのである。次に、この真正性と象徴やイマージュとの関係をラカンとベルグソンに従って捉え直し、イマージュとしての物質が、抽象された観念的な象徴であるとともに知覚され自己の移入がなされる具体的な対象を越えた存在ではないのならば、これは不可視なものをともなった可視的な対象以外の何ものでもないことを指摘した。「見えながらも見えない」象徴を含んだ対象、このような存在がわれわれを真正な自己へと導きこれを構成させるといえる。さらに、自己とは区別され自己を外化し移入することで真正な自己を構成する対象こそが「他性」であって、この他性の意義について多様な検討を加えた。他性が、知覚されるものを越えては求められないのならば、これはまさに「視覚」の内で見られ捉えられ出会われる対象である。ヴァーチャル・リアリティではなく実際の現実の中で他性と出会いこれを見ることにより真正な自己がいかに具体的に構成されるのか、といった問題が今後の課題となる。
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Media Studies, Minerva Publishing
早稲田大学教育学研究科紀要
ページ: 20
Bulletin of the Graduate School of Education No. 18
ページ: 1-21
Banquet of Sociology, Sanwa Press
ページ: 127-163